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黒澤の全盛期、日本映画の全盛期 2007/11/22
脂の乗り切っている頃の黒澤明の傑作。何せこの後に「用心棒」「椿三十郎」「天国と地獄」と続くのだから、物凄い充実期だ。どれか一本を撮れただけで、黒澤以外の監督なら生涯の最高傑作になってしまうであろうハイクォリティの名作が並ぶ。
しかし、この作品は黒澤の写真の中では異色作の部類かもしれない。黒澤は例えそれまでの展開やテーマが重苦しくても、最後に一抹の希望と救済を垣間見せる作品が多く、ここ迄絶望的な、何の救いもない作品は珍しい。
正にタイトルが全てを象徴している映画と云える。
特筆すべきは森雅之の老けメイクによる怪演で、主演の三船を完全に喰ってしまっている。
葬儀のシーン等におけるパン・フォーカスもいつも通り絶品。本当に黒澤は骨太でありながら、繊細な映像作家だ。
突き放した様なラストには、背筋が凍りつく思いがする。
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小川徹の慧眼--抵抗者と大衆の共存と言ふ視点 2007/12/13
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この映画の中に印象的な科白(せりふ)が有る。それは、主人公(三船敏郎)が、当初は利用する積もりに過ぎなかった公団総裁の娘(香川京子)に愛情を抱いてしまった際、同志(加藤武)の前で口にするこの科白である。--「悪を憎むと言ふのは、大変な事だ。・・・」
この映画は、公開当時、批評家からは高い評価を受けなかった様である。黒澤明監督の賛美者である佐藤忠男氏なども、この映画には少々批判的である。(佐藤忠男『黒沢明の世界』三一書房・1969年参照)そんな中で、異色の映画評論家として知られた小川徹(1914~1989)は、この映画を高く評価した。小川徹によれば、この作品は、悪に対して抵抗を試みる抵抗者と、悪との戦ひなどしようとしない平和愛好的な大衆が、いかに共存するか?と言ふテーマを描いて居ると言ふのである。(小川徹『日本映画作家論』三一書房・1965年参照)悪に戦いを挑む抵抗者と、悪を恐れ、戦ふ事を躊躇する大衆の対立と言ふ図式は、『七人の侍』にも見られる構図であるが、黒沢作品に流れるこうしたテーマ--抵抗者と大衆はいかに対立し、共存するか?--に着目した小川徹の視点は、実に秀逸であった。
ところで、私の知人で、政界に詳しい人が、こんな事を言った事が有る。--「政界って、本当に人が死ぬからね。『悪い奴ほどよく眠る』みたいな事が本当に有るからね。」--恐ろしい話である。映画の最後に掛かって来るあの電話は、何処から掛かって来たのだろうか?・・・・・
(西岡昌紀・内科医)
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汚職や腐敗を扱った映画としては、ストレートすぎるきらいもあるが、脚本の巧さと演出力で一気に見せる 2007/11/28
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この映画に★5個の評価を与えるかどうかは悩むところである。これほどストレートに役人の汚職や役人を描くのは単純すぎるのではないだろうか、あるいは香川京子への三船の愛情は描かない方が(あるいは逆にもっとドラマの主軸の展開に絡ませても)よかったのではないだろうか、最後の場面で巨悪が姿を見せずに終わってしまうのは消化不良ではないだろうか、といった疑問の数々が常に頭をよぎるのも事実である。しかし、それでも何回も繰り返し見てしまう脚本の上手さと演出のダイナミズムに圧倒される。コッポラがこの映画が大のお気に入りというのも頷ける。一般的には黒澤明の失敗作(それでも普通の監督にはとてもこのレベルの映画は作れない)と評されることが多いが、生き物の記録」といい、この「悪い奴ほどよく眠る」といい何かに憑かれたような黒澤の演出力には脱帽する他ない。
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理想主義者黒澤 2008/1/9
黒澤明監督は昭和三十年代、これと、“生き物の記録”“天国と地獄”という現代劇を作っています。 二十年代の現代劇は八本なのでかなり数が減っています。しかしながら、この三本には二十年代の作品を束にしてもかなわないような濃厚な内容があります。 娯楽性、映画的完成度という点では“天国と地獄”がなんといっても一番でしょうが、実は残りの二本のほうが興味深い作品であると私は思います。
この二本の作品の中で、主人公は自分よりも圧倒的に強大な力を持った相手に徒手空拳で立ち向かい、破滅します。 一般的な批評では、あのように無謀な戦いを挑む人間などはもともといないのだから、そのようなキャラクターを作ること自体がすでにストーリーを破綻させている、という主張が多いようで、それはそれで分かります。 しかしながら、そもそも人があの様な無謀な戦いを挑まないのは、挑まないことが正当なことなのだからではなく、保身-つまり、生き延びることが目的だからにすぎません。 黒澤作品の凄みというのは、主人公の行動を通して、ルサンチマンを抱えながらもとにかく生き延びることが何より大事-というのは本当なのだろうか、それよりももっと大事な“大儀”なるものがあるのではないか、というところまで我々に想起させてしまうところにあると思います。 理想主義者が時折見せる狂気、そしてその圧倒的な力強さは確かに私たちを奮い立たせる-それが黒澤失敗作を見る醍醐味だろうと私は思っています。 そういう意味で、この作品は必見です。