美しいワイオミング州の山々。ふたりのカウボーイが羊を放牧している。ワイルドで牧歌的な風景に奏でられるのは、彼らの愛の物語。男同士の関係を描きながら、これほどまでに万人を感動させる映画は、過去になかったかもしれない。イニスとジャックは、ブロークバック・マウンテンで燃え上がった愛を、その後、失うことはなかった。ともに妻を迎え、子どもを授かっても…。
物語は1963年に始まり、舞台は保守的な中西部なので、当然、厳しい現実が待っている。そして、妻たちの悲しみもある。アン・リー監督は、それらすべてを過不足なく描き、主人公ふたりの愛を際立たせていく。何より、演技がすばらしい。イニス役のヒース・レジャーは、素顔の本人とは別の、絞り出すような低音の声で男くささを前面に出しつつ、内に燃えたぎるジャックへの愛を表現する。ふたりの再会シーンでは、衝撃的なまでに激しい愛がぶつかり合うのだ。
誰かを真剣に愛し、その愛を長い間、心に育んだ経験のある人なら、本作の愛に打ちのめされるはず。静かだが、あまりにも切ないラストシーンは目に焼き付いて離れない。(斉藤博昭)
内容(「DVD NAVIGATOR」データベースより) 『グリーン・デスティニー』のアン・リー監督、2006年アカデミー賞監督賞ほか3部門を受賞した人間ドラマ。60年代のアメリカ西部を舞台に、ふたりのカウボーイの20年以上にもわたる禁断の愛を描く。メイキングなどを収録した特典ディスク付き、2枚組。
1
I swear・・・ 2006/5/16
劇場には5回通った。
上映が続いていればまだまだ通っただろう。
回数を重ねるほどに、涙をおさえることができなかった。
淡々とした映画である。しかし、2時間強、1カットとして無駄な描写はない。
謎解きも、あっと驚く結末も、こけおどしの伏線もない。しかし、1シーンとして流し見できる部分はない。
テーマのひとつである「同性愛」ということに先入観をもって観て欲しくはない。
しかし観終わったら「同性愛」と「同性愛嫌悪/恐怖」によるヘイトクライムについて考えて欲しい。
この世を生きることのままならなさと、それでも耐えて生き抜かなければならない理不尽さ。心を偽ることが愛し愛する人を傷つけ、自分自身の心をも荒廃させていく悲劇を虚心に受けとめて欲しい。
丁寧な人物描写とロケーションの雄大さ、控えめだが印象的な音楽が、若いキャスト陣の名演を支えている。ノンジャンルで活躍している李安監督の手腕の確かさと、原作を充分消化した上で脚色された脚本の完成度の高さが、素晴らしい俳優たちの演技を完全に生かしきっているのだ。
派手な特殊効果もケレンもない。よい脚本があり、ヴィジョンのはっきりした監督がおり、能力を最大限に発揮できる演者がいれば、マスターピースと呼ばれるべき映画は創られうるのである。
2
"i wish i knew how to quit you." 2006/3/13
「ニューヨーカー」に原作短篇が掲載されてから8年。幻の傑作と評判の脚本がようやく最適な監督の手で最良のキャストによって映画化され、05年の米で最も語られ、多くの観客を何度も劇場に向かわせた最も心に取り憑いた作品になったこと自体、奇跡でなくて何だろう。ほんの少し何かが狂っただけで無残な失敗に終わったはずで、そもそも全く日の目を見ない可能性さえあったのだ。さらに、未だにこの問題を冷静に受け止めず狭量な偏見丸出しで攻撃する人々が多くいる現実からも、この映画が語られる意味がわかるだろう。ある米のレビュアーは書いていた。「結婚して家庭を持つ男たちが、自分の本当の気持ちを決して表に出せずに、映画を見ながら『これは自分の物語だ』と思っていることを、いったい何人の者に想像できるだろう?彼らの妻達は、今まさに隣で起こっていることだとは夢にも思わず、自分とは無関係の物語として見るに違いない。もしかしたら『なんて可哀想な話なの』なんて感想を本人に漏らしつつ」。2人がゲイでないならという仮定は無意味だし、これはただ感動的にするために与えられた悲劇の恋物語などではなく、ある人々にとっては未だに痛いほどの現実なのだ。もっとも、監督が込めたのはそんな社会的メッセージではない。壮大な自然の中、ennisを完璧に体現したHLを初め俳優たちの演技は信じられないほど素晴らしく、無意味な映像やセリフは一切ない。だから人は彼らの20年を自分の中に再構築し、まるでその人生を共に生きたかのように彼らの苦悩を本物だと信じることが出来るのだ。本当は何の情報も先入観も持たず豊かなイメージに身を委ねてほしい。「ゲイのカウボーイの物語」という乱暴な括りに収まらない素晴らしい映像体験になるはずだから(もし共感できなくても自分の人生に重ねて何かを感じるはずだから)。これは言葉ではなく行間の映像で語り、彼らの人生を体験させる映画なのだ。
3
He Was a Friend of Mine 2006/5/5
叶わない相手を想う恋も切ないが、想い合っているのにひとつになれない愛は想像以上に残酷であろう。
時代と場所が違えばひとつになれた二人。
同性愛者と知らずにその人を愛してしまった人々の苦しみ。
『同性愛者』のキーワードに嫌悪感を抱く人は、その言葉に捕らわれ過ぎ、この映画の本当の意味を見失っていると思う。
この映画が教えてくれるのは、『人を愛すること』の意味。
そもそもボクはなぜペットを愛する気持ちや、会ったこともない有名人に恋焦がれる気持ちは受け入れられるのに、同性を愛する人の心が理解出来ない人々がいるのかが納得できない。
たまたま好きになった相手が同性だった、ただそれだけのこと。
それだけのことなのにひとつになれない二人がもどかしくもあり、愛おしくもあり、そして涙を誘う。
ジャックが切なげな瞳でイニスを見つめるシーンが心に焼き付いている。
そしてエンドクレジットで流れるウィリー・ネルソンの曲が心を突き刺す。
決してお涙頂戴のために作られた映画ではない。
ただこういう現実が世間にはあること、しかし『愛』というものが絶対であること、そういったことを教えてくれる映画である。
この映画を拒否したアカデミーもまた、同性愛というものへの一般社会の象徴なのかも知れない。
4
人生の切なさといとおしさに泣けた 2007/2/5
間違いなく私の人生ベストワンの映画。これまでも、そしてこれからも。それほどこの作品が与えてくれた感動は深く、他に例を見ない類のものだった。イニスとジャックの運命について繰り返し繰り返し考え続けて、いつまでも後を引くのだ。過去のトラウマに縛られて、ジャックへの愛を認めることができないまま、彼の死後にやっとそのことに気付くイニスと、どんなに求めても決して報われない愛に焦がれ続け、無残な死に方をしたジャック。片道14時間の距離をものともせずに、20年もの間ひそかに育み続けた愛。未来もなく、生み出すものもなく、何の希望もなくても諦めることができなかった行き場のない愛。こんなひたむきで絶望的で混じり気のない愛のかたちを描いた物語は初めてだった。同性愛であろうと、不倫であろうと、ここまで真剣に愛に向き合って生きている二人を、私は非難したり嘲弄したりすることはできない。ただただ圧倒され、心にしみてくる感動に身を任せるしかなかった。すばらしい脚本、原作者、監督、そして俳優陣に大きな拍手を送りたい。
5
私の映画人生で最も心震えた作品 2006/3/21
舞台は1963年、まだゲイに対する理解は薄く田舎になればさらに偏見は強くなる。そんな中、男通しに芽生えた愛情を20年に渡ってひっそりと守り続けたイニスとジャック。同性愛がゆえの苦しみではあるけど、ゲイの映画として紹介するのはちょっと違う、監督も言っているように純愛ラブストーリーとして極上の作品に仕上がっている。ジャックが4年振りにイニスを訪ねるシーンでのイニスの落ち着かない仕草、ジャックを目にした時のあの表情、言葉で説明が無くてもすべてが伝わり次のシーンがさらに胸に来ます。ここが良かったというシーンは沢山あって全て書いてたらほとんどネタバレになるのでやめますが、ラストについてはどうしても言いたい。最後イニスのささやくような一言、実際の台詞と字幕は違っていたけど、どちらもふまえて最高でした。あの一言で胸が熱くなりエンドロールを見ながら完璧動けなくなりました。見終わって流れてくる涙、心をガッシリつかまれ何とか帰宅してからも余韻が後を引きガマンできず2日後また劇場に行ってしまった。素晴らしい演技を見せてくれたヒース・レジャーとジェイク・ギレンホール、難しい作品をここまで完璧に作り上げたアン・リー監督に感謝と賞賛の気持ちでいっぱいです。
DVDでも4日間泣き続けた回数を重ねるごとに更に深みが増し、ホントに最高~!まだまだ何度でも見れちゃうです~。
6
命懸けの愛。 2006/7/2
・・
本作は男同士の恋愛、つまり同性愛を扱った映画です。
アメリカでは同性愛に対する反発が激しく、本作品を上映させない映画館も多いです。
更に言うなら同性愛はアメリカのごく一部の地域では市民権を得つつあるものの、
南部(Deep South)では、同性愛者は尾行されたり、最悪の場合、殺されたりします。
映画「イージーライダー」では男が長髪であるだけで殺されました。
本作の主人公イニスとジャックはブロークバック・マウンテンで羊の番をするうちに
、お互いを意識し合い、遂には愛し合うようになります。
2人はそれぞれ(女性と)結婚してイニスには子供もいます。
それでも2人は愛し合っているのです。文字通り命を懸けて。
原作本は驚くほど短く、描写も淡々としています。
そうなると注目されるのが脚本家の腕です。
原作に敬意を払いながら、心血注いで「言いたい事」を付加して原作を超える。
これが「脚色」と言うものです。
本作の脚本家は実に良い仕事をしました。
本作の脚本家の命が心配です。
作品に心血を注ぐとは文字通り「命を削る」作業で過去何人もの脚本家が「戦死」しています。
映画の興行主は観客の入れ替え数を増やす為、口を開けば「尺」を短くしろ、と言います。
故に劇場公開される映画には唯の1カットも(興行主に)説明不能なカットはありません。
勿論本作も例外ではありません。
本作ではブロークバック・マウンテンがどこまでも美しく撮影され、2人の愛の軌跡を見守っているようでした。
7
揺さぶられて 2006/7/22
「映画史上最も心揺さぶられる作品」
この言葉はこういうことなのかと、鑑賞し改めて納得した作品です。
初見の際は何か分からず、ボーっとして友人の話も上の空状態でした。
それから4度の鑑賞をし、これまでの歴史にいたであろう
多くのイニス(主人公)を思い、またひっそりと切なさに
揺らいでいます。
全ての人に良い作品と言われる、主人公を善人に仕立てた
ヒーロー映画ではないので、居心地の悪さを感じる人には向きません。
無駄の無いシーンや台詞、そして音楽、全て一体化されていて、
心の中に沁みて永遠に残り続ける素晴らしい作品です。
8
イニスを演じたヒース・レジャーよ、安らかに。 2008/1/24
・・
便乗だなんだと思われても構いません。書かずにはいられない。
オレの誕生日でもあった2008年1月22日、イニスを演じたヒース・レジャーが急死した。
まだ28歳の若さだった。
彼には進行中の作品がいくつもあり、加えてはじめての長編監督デビューも予定されていた(ジョーカーを演じ、すでに撮影を完了した『バットマン ビギンズ』の続編“The Dark Knight”が、どうやら遺作ということになりそうだ)。
本作でも最高の演技をみせ、今後、年齢を重ねると共に、さらにすばらしい俳優に成長するだろうと思っていたのに。
せつない、あまりにもせつなすぎる“男泣き系映画”の傑作でもある本作に、こんな後日談が待っていようとは思いもしなかった。
実生活でも婚約し、娘さんも授かったが、少し前に破局したというアルマ役のミシェル・ウィリアムズ、ジャックを演じたジェイク・ギレンホール(本作の撮影を通し、ヒースとは大の親友になった)、ラリーン役のアン・ハサウェイ、そしてもちろんアン・リー監督も、ショックを受けていることだろう。
特典ディスク―コンテンツやボリュームには不満が残るが、内容そのものはまずまず―に収められた、オフショットやインタビューの断片も、今ではとても貴重なものになってしまった。
もちろん、監督・脚色・作曲の3部門で受賞できたことはすばらしいが、この作品はオレに「もしそれが『いい映画だ』と思ったなら、アカデミー賞なんて関係ないね」ということを教えてくれた佳作である。
そしてきっと、あなたの《心の宝物》になる、そんな作品だと思う。
吹替版音声も、よくできている。
イニスを演じたヒースに想いをはせながら、どうかじっくりとごらんいただきたい。
9
繰り返し見たい作品 2006/6/1
8回も見ました。ほかの映画は良い映画だと思っていても、劇場では1回だけだったので、自分でも驚いてます。こういう経験は初めてで、ワンシーン、ワンシーン繰り返し見ても飽きない、DVDの発売が待ち遠しい。因みに私は異性愛者です。
10
先入観を捨てて 2006/4/15
正直言って映画館で観るまではゲイのシリアス恋愛物語なんて見るに値するのかと思っていた。
アン・リー監督のこれまでの映画は時として冗長で、これも退屈するかと思いきや、上映中ずっと身動きも瞬きもできませんでした。
映画を観て泣いた事などほとんどない私が 劇場を出て友達と会い、さんざん飲んで楽しく酔っ払い、家に帰ってから、深夜 急に内容を思い出して夜中にさめざめと涙を流してしまったのです。
幼い頃に両親をなくし兄弟も結婚して実家に居場所のなくなったイニスは早く温かい家庭を持ちたいと願い、アルマという婚約者を得て結婚を控えた年の夏に、羊の番をする仕事にありつき、そこでジャックと出会います。
1960年代アメリカでも特に保守的な西部だからこそ起こりえたストーリーであり、これを現代の、例えばニューヨークあたりに舞台をすえたなら主人公二人がこんなに苦しむことはなかったのです。
二人の苦しみもさることながら、彼らの妻達の苦悩、わけてもジャックの両親の辛さが身にしみる。
映画のエンディング近くにイニスがジャックの両親を訪ねる場面。
元々が寡黙なイニスと、小さな家に倹しく住むジャックの年老いた両親(おそらくは自分達の息子がゲイである事、イニスが息子の恋人である事を知っていたであろう)の間に交わされる言葉は少ない。
しかし、彼らの表情や眼差し、仕草がすべてを物語り、まるで昔の日本の映画を観ているかのような静謐なシーンだ。
主演二人の素晴らしい演技のおかげでこの映画はアメリカ映画史に残る傑作になったと思う。