大衆酒場のワンセットで繰り広げられる人間模様。巨匠・内田吐夢が実験的なスタイルで描いた異色の野心作。
内田吐夢の帰国第二作。大衆酒場の開店から閉店までの一日に時間を限定して、そこに集う人間模様を《グランド・ホテル形式》で描いた異色作。重層的に描かれるエピソードは互いに衝突し、止揚しあい、世相の縮図を鋭く映し出す。と同時に、シューベルトやビゼーのクラシック音楽から軍歌、民謡、流行歌にいたるまで、あらゆる種類の音楽をふんだんに盛り込んだ音楽劇の趣もある。
酒場のセットに出入りする多くの登場人物を捌く吐夢の見事な演出は、さながら熟練したオーケストラの指揮者にたとえられよう。脚本は本作がデビュー作になる灘千造。酒場の中を縦横に動き回る撮影を担当したのは西垣六郎。重厚でリアルな酒場のセットを設計した美術監督は伊藤壽一。音楽は芥川也寸志。
出演は、津島恵子、野添ひとみ、小杉勇、宇津井健、東野英治郎らに加え、成城大学(当時)の音楽教授・小野比呂志、バリトン歌手の宮原卓也が本格的な映画出演を果たし、登場人物のすべてが同格の主人公という異色作を彩っている。
監督:内田吐夢 製作:榮田清一郎 脚本:灘 千造 撮影:西垣六郎 照明:傍士延雄 録音:中井喜八郎 美術:伊藤壽一 音楽:芥川也寸志 出演:津島恵子、野添ひとみ、小杉 勇、宇津井健、東野英治郎
94分 B&W スタンダード 日本語モノラル ハイビジョン・デジタルニューマスター
特典 収録:内田吐夢監督作品『少年美談 清き心』(1925年)30分 提供:プラネット映画資料図書館、予告編、劇場ポスター、プレス(画像) 封入:田中眞澄+木全公彦による解説リーフレット
内容(「DVD NAVIGATOR」データベースより) 『飢餓海峡』の内田吐夢が大衆酒場のワンセットを舞台に実験的なスタイルで描いたサスペンスドラマ。大衆酒場の開店から閉店までの1日を、あらゆる種類の音楽と滑らかなカメラワークで「グランドホテル」風に映し出す。特典を封入。
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様々な人々の人生の断片を凝縮。 2006/11/26
公開された年は1955年、昭和でいうと30年、終戦からわずか10年の時の作品である。この時代に懸命に生きる老若男女の人生を、酒場という一つの舞台に凝縮し描いている。予算的な制約もあったであろうが、舞台を一つのセットに限定し、様々な登場人物のエピソードに実際に歌やレコードなどの音楽を随所に挿入することで、全編が淀むことなく展開してゆく。終戦からまだ10年とあって、年配者の人生いずれにも戦争の爪あとが深く残されている一方、若者は未来に向かって生きている。貧しくも互いに助け合い懸命に生きている人々の姿が、心に沁みてゆく作品である。
黒澤作品でおなじみの加東大介や東野英治郎、多々良純などが登場する一方、映画デビュー間もない丹波哲郎や宇津井健の若かりし姿も見る事が出来る。声楽家を目指す青年とその師匠には、実際の音楽家のプロが演じているが、俳優の中に交じってまったく遜色は感じさせない。特筆すべきは、踊り子を演じる津島恵子の美しさ(前年公開された『七人の侍』では農民の娘を演じているが、そのギャップの大きさ!)、そして小杉勇演じる老年画家の味わい深さであろう。