若年性アルツハイマーと聞くと、悲痛なドラマを連想するが、本作は観終わってどこか希望の光を感じさせる。それでいて、病気の現実を真正面からとらえる。この意味で、ひじょうに好感が持てる作品である。渡辺謙が演じる主人公は、50歳を前にして物忘れがどんどんひどくなる。最初に彼が受ける病院の検査から、観る者に同時体験させることで、アルツハイマーの怖さをリアルに実感させていくのだ。もし自分が、あるいは家族や同僚が…と切迫感を高める展開が見事。
これ以前の作品ではトリッキーな演出で賛否もあった堤幸彦監督だが、本作では記憶が曖昧になっていくドラマに、その演出方法がピタリと合っている。この種の映画では、得てして悲劇だけが全面に押し出されがちだが、周囲の人間のさまざまな反応、とくに相手がアルツハイマーであることを利用しようとする人間の悪い部分もさり気なく盛り込み、多面的に考えさせるところが秀逸。木梨憲武、大滝秀治ら脇役の存在感も光っている。クライマックスからラストが、これほど心地よいのはなぜだろう? それは作り手の、人生に対する賛歌が託されているからである。(斉藤博昭)
内容(「DVD NAVIGATOR」データベースより) 『トリック 劇場版』の堤幸彦監督が、山本周五郎賞を受賞した荻原浩の同名小説を渡辺謙、樋口可南子共演で映画化したドラマ。若年性アルツハイマー病に突如襲われた50歳の働き盛りのサラリーマンと、そんな夫を懸命に支えようとする妻との絆を綴る。
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夫婦愛 2006/8/11
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「若年アルツハイマー」というと、韓流映画「私の頭の中のケシゴム」が記憶に新しいところですが、あの映画はずいぶん若い主人公でした。本作は、アルツハイマーにはちょっと早かなという微妙な年齢の熟年夫婦の物語であり、リアリティも十分あった。
監督は、「トリック」の堤幸彦監督ですが、オープニングで少々トリッキーな感じがあっただけで、全体的にはこれまでとは一線を画し、しっとりした夫婦愛の物語に仕上げています。特殊効果もポイントを押さえて用い、佐伯の記憶が失われていく過程や被害妄想、疑心暗鬼になってしまうシーンでの主人公と観客をより同調させる。特に、妻の若い頃の姿を追いかけるシーンでは、その後新しい記憶を失っていくことを予感させる、上手い演出でした。
渡辺謙は、かつて病に倒れた自らを重ねるように、若年性アルツハイマーという現実に直面した壮年期の男の怒り、悲しみ、不安、焦り、諦めを見事に演じています。樋口可南子は、自身も不安に駆られながらも夫を支える難しい役どころでしたが、さすがに上手いね。渡辺謙と樋口可南子の演技だけでも十分観る価値はある。
あと、香川照之や及川光博ら、個性的な脇役もよかった。特に、出番は少なかったけど大滝秀治。彼の「東京ラプソディー」をちょっと歌詞を間違えて歌うシーンは、重要なシーンのひとつでした。
2
忘れていくものの中で残るものの重み 2006/6/24
アルツハイマーを患う夫婦の物語ということだったので 特に思いいれはなかったのですが、(まだあまり関係ないと思って)渡辺謙さんのファンなので観ました。広告代理店の管理職でバリバリ仕事をしていた渡辺謙が、発病してから少しずつ記憶を失い、仕事も家族との関係も変わっていく様子が細かいエピソードの中で描かれていて、どきどきしました。
ヘビーなテーマなのに 鑑賞後にとても明るい気持ちになれるのは、ラストで渡辺謙が一番身近な妻を妻と覚えていられなくなったのに、彼女をみて、懐かしい、はにかんだような、そして、これからこの人とちょっと話しをしてみたいな、というような表情を樋口可南子に対して見せるシーンが出てきたからです。渡辺謙のその演技力にとことん引き込まれたし、樋口可南子がその短い瞬間にすべてを悟り、それを受け入れ、新たな出会いとして歩き始める(という演技力もまたすごい)強い心に感動させられたのです。渡辺謙は樋口可南子が好きだし、樋口可南子はそんな渡辺謙が好きなのです。
なんとなく夫婦になってしまった、こんなんでいいのか?と後で思う夫婦って多いと思うのですが、よく考えるとその”なんとなく”は実はとても奥が深くて、自覚してないけど、自分にとってとても大事な人を選んでいるのだろうなと気づくにいたりました。渡辺謙さんが観たくて観始めた映画ですが、樋口可南子さん、とても素敵でした。
3
アルツハイマー症患者に付き添う妻を描いた良作 2007/5/2
アルツハイマー症を描いた映画というと、吉田喜重監督の往年の名画「人間の約束」が思い浮かぶ。
「人間の約束」はアルツハイマー症患者夫婦と介護する息子夫婦の物語であり、「明日の記憶」はアルツハイマー症患者である夫と介護する妻の物語である。この2作品は同じアルツハイマー症の患者を描いた作品であるにも拘らず、アルツハイマー症患者に接する度合いも抱く感情も大きく異なる。「人間の約束」が、自分がわからなくなってしまった人間に一体どこまで人間としての権限を与えるかという人間の尊厳を厳しく問いただした映画であるのに対し、「明日の記憶」は、自分がわからなくなってしまった人間を最後まで人間として慈しみ深く接することができる夫婦の絆の強さを証明した映画である。「人間の約束」には、地獄図のようなリアリティの凄まじさから途中言葉をなくしてしまうほどの深度があるのに対し、「明日の記憶」はまだ俳優がきれいなことから、そこまで言葉をなくしてしまうほどの深度がない美しい物語だといえる。
さて「明日の記憶」。男性的視点から言わせて頂くと、アルツハイマー症の夫を養うために働く妻の懸命な姿がとにかく心を打つ。妻は自分で生計を立てることができるだけでなく、また年齢を感じさせない女性としての清楚な美しさをも合わせ持つ。夫を見捨てて他の恋愛に生きることは十分に可能であったであろうと思うが、ここでの妻はそうはしなかった。妻は夫の側にいつもいたのだ。たとえ病気により自分のことを忘れてしまった夫であっても、望んで犯されたアルツハイマー症でないだけに、妻は最後まで夫に強く寄り添う。ここでの妻は、かけがえのない二人の思い出のために、また自分たちの子孫のために、自分の現在の責務一式を引き受けることで、良心に従って必死にあるべき夫婦の姿を引き止めたのだ。
最後まで懸命な妻の姿が心を揺さぶる、美しい夫婦愛の良作である。
4
若年性アルツハイマー 2007/7/3
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堤幸彦監督は、H2、トリックなどで名前を存じ上げていましたが、良い作品です、原作の荻原浩氏の小説は読んでいました。
樋口可南子の妻、大滝秀二の暈けた老人、及川光博の医師等上手く纏まっています。
私も及川さんの行ったテストについてゆけませんでした。
その事でこの映画の筋が、良く解らなくなったようになりました。きっと、私と同じ思いをした50代の人も多かったと思います。
段々、記憶が無くなってゆく、怖さ。それを傍で見る家族の悲しさ、身に詰まされました。
5
泣けました 2006/7/10
飛行機機内で観ました。
映画で泣くことはほとんどないのですが・・・今回はダメでした。
もはや他人事ではないような気もして「もしも自分が」と考えました。
いや「もしも」と言う表現さえ正しくないような気がします。
最近物忘れが、と悩んでいたところです。。。
今度は家内と観たいです。
6
切実になる前に、どうぞ、ご覧下さい 2006/9/30
思い当たることを持つ身なので
全編爆涙でした。
はじめがあのシーンだなんて。。。
まだ、「思い当たる」レベルの時に
観る事ができてよかった。
だから、こんな現実に
興味も関心もほとんどない時期の方に
強制的に見せる方がいいのかもしれない。
樋口加奈子さんが「理想の妻」過ぎて
切ないです。
個人的には医者役の及川光博さんの
一見とってつけたような表現が
現場の人間からすると逆にリアルで
心に残りました。
35歳、キャリア10年の医者も、
50歳の方から見れば「若造」しかないでしょう。
それでも、若造なりに10年のキャリアを積んで
神様か悪魔がしかけた
落とし穴だらけの現場に踏みとどまって
できることを成そうとしています。
そんな現実を見つめることが
切なくなりすぎない程度の時期に
観て頂ければいいなあと思ったりしました。
ご参考までに。
7
自分が同じ状況になったらどうなるだろうか・考えずにはいられない作品 2007/5/2
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昨年度(06年度)渡辺健が主演男優賞を総なめにし話題となった作品です。
物語は、あるやり手広告代理店部長が49歳で、若年性アルツハイマーを発病するところから始まる。大きな仕事が決まり、皆と一緒にやり遂げようと思っていた最中の発覚に愕然とする。
渡辺演じる主人公佐伯に自己投影し、自分が同じ状況になったらどうなるだろうか?と考えずにはいられない。それだけ、魂が込められた作品だと感じました。
8
感動と悲しみと・・・ 2006/5/26
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本を読んだときも感動しました。でも、映画も本を読んだときと同じ
くらい感動しました。
バリバリの仕事人間だった佐伯を襲った突然の病、「若年性アルツ
ハイマー」。病気の宣告を受けたときの驚きと戸惑いと絶望と、悲しみ
と・・・。渡辺謙さんの演技は本当に迫真に満ちていました。
及川光博さん演じる医師との会話、そして会社で一緒に仕事をした
人たちとの別れの場面には涙しました。でも一番涙が出たのは、本も
映画もラストでした。いつかはこういう日が来るのだと分かっていて
も、佐伯の妻(樋口可南子さん)の気持ちを思うといたたまれなく
ります。
原因も治療法も分からないこの病気。決して人ごととは思えません。
いつもの日常生活がかけがえのないとても大切なものに思えました。
いつの日か、この病気の治療法が見つかることを祈らずにはいられま
せん。
9
ツラク、切ない映画だが、これほど“夫婦”の絆の深さと強さを感じる映画はない。秀作。 2007/1/8
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ツライ映画である。切ない映画である。しかし、これほど“夫婦”の絆の強さと深さを描いた映画は、最近ないのではないか。秀作である。私は1年以上前に読んだ原作にも感銘を受けたが、遅まきながら今作を観て、溢れる涙を抑えることが出来なかった。原作では、まだ50歳にもならない折に突然襲う病魔に対し、日々記憶が喪失していく事への不安、自分が自分でなくなってしまう事の恐怖を感じながらも、それにしどろもどろになりながらも対峙し、全力を振り絞っていく主人公に焦点が合わされていたが、映画では、身内がそのような状況に陥った際、家族(夫婦)はそれにどう向き合い、生きていくものかを問い、その強さと深さを誠実に謳い上げる。堤 幸彦は、TVシリーズ「ケイゾク」や「トリック」でのケレン味溢れる映像感覚で著名な監督だが、今作は、主人公が病魔に襲われるシーン以外では、極めてオーソドックスな堂々たる演出ぶりで、ともすれば、身につまされる原作を映画的に昇華させ、情感溢れる感動作に仕立て上げた。医師から初期のアルツハイマー症を宣告された時の夫婦の動揺と慟哭、愛娘の結婚披露宴でのスピーチ、退社日にかっての部下たちから贈られるポラロイド写真の数々、、、と涙、涙のシーンが続く。原作に感動し今作の製作に尽力した渡辺 謙、ハリウッド・スターの風格を感じさせる渾身の名演だが、それにも増して感動的なのは妻役の樋口可南子!哀しさと苛酷さを全て受け入れて気丈に優しく振る舞うその姿は、この上なく美しく、彼女の名演を以って、この作品のテーマの大きな力となっている。
10
切なすぎるラスト 2007/1/20
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若年性アルツハイマーにかかった49歳の男。
家庭を顧みずバリバリと仕事をしてきた男の運命としては辛すぎるものがある。
徐々に記憶がおぼろげになり、
最後には死が待っている。
しかし、それさえも分からなくなっていく、
そんな主人公を渡辺謙が熱演しています。
原作にほれ込んでいるからこその熱演といってもいいのではないでしょうか。
原作にほぼ忠実に描かれていますが、
最初のシーンはおそらくこうなるだろうという想像というか希望ではないだろうか。
原作の最後のシーン、
奥多摩に迎えに来た妻の枝実子に「いいお名前ですね」と
すでに妻のことさえ忘れてしまった夫に涙する妻。
原作でも痛いほど切なかったけれど、
映像化されるとさらにその切なさが胸に染みます。
本当にいい映画でした。